2021年7月30日金曜日

住居の立退きに関するご相談

 今回は一般的な居住用の賃貸物件の借主様から多く受けるご相談を紹介いたします。

賃貸物件の貸主様(オーナー)や管理会社から,退去して欲しい旨の連絡を受けたといったような,いわゆる「立退き」に関するご相談です。

過去のご相談では,「今後のお住み替えの流れ」や「明渡し承諾書」などの書面が郵送で届き,同書面には引越費用や転居先の賃貸初期費用などをすべて負担すると記載されているものの,そもそも署名押印するのが怖い,そのような提案が妥当であるか否か判断できないというご相談者様がいらっしゃいました(相談者様)。

他にも,貸主様(オーナー)からいきなり電話がかかってきて「100万円の立退料を支払うので6カ月後に出て行ってくれないか」と伝えられたというご相談者様もいらっしゃいました(相談者様B)。

インターネットで検索すると,立退料の相場は家賃の6カ月から12カ月分である,40万円から80万円程度であるといった記載を目にすることがあります。

引越費用や転居先の初期費用の負担,現金100万円の交付といった立退きの条件を聞くと,賃貸物件を退去しても損しないのではないか,むしろ得なのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし,交渉術の基本からすれば,最初から好条件を提示する貸主様(オーナー)は通常いらっしゃいません。また,賃貸物件の契約条件や借主様の事情は多種多様であるにもかかわらず,立退料の計算にあたってすべての事情が考慮されていない可能性があります。

借地借家法第28条には,「正当な事由があると認められる場合」でなければ賃貸借の解約申入れ(立退き要求)をすることができないと記載されています。この正当な事由の判断にあたっては,建物の使用の必要性など貸主様(オーナー)側と借主様側の様々な事情が考慮されますが,立退料の支払いは正当な事由を補完する位置づけとなっています。

そうすると,現在締結している賃貸借契約の条件のほか,貸主様(オーナー)側が今回なぜ立退きを求めなければならないのかといった事情や,借主様側の賃貸物件の使用状況等の事情を把握しなければ,貸主様(オーナー)の立退料の提示が妥当な金額であるか否か判断することはできません。

これらすべての事情を詳細に調査して交渉にあたった結果,相談者様Aの案件では,家賃6万5000円の賃貸物件において約100万円の立退料での合意に達しました。他方,相談者様Bの案件では,借主様が引き続き居住することを強く希望されていたこともあり,立退き自体を回避することに成功しました。

貸主様(オーナー)は借主様との交渉で立退きの合意に達しない場合には,民事訴訟を提起したうえ,強制執行の申立てを経なければ借主様に対して強制的に立退きを求めることができません。そのため,判決に至った場合に予想される立退料の額や訴訟費用の負担,強制執行までに要する時間なども交渉の材料とすることが可能です。

以上のように,一般的な居住用の賃貸物件であっても,事情によっては立退料の大幅な増額となることもありますので,賃貸物件の貸主様(オーナー)や管理会社から立退きのお話があった場合には,一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。

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